吉川研究室 研究紹介

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高分子(DNA)の構造と機能

ソフトマター物理学

非線形・非平衡物理学



高分子(DNA)の構造と機能

    セミフレキシブル高分子の引き伸ばし: 構造転移と履歴

    単一高分子によって生成されたトロイド構造の形状変化

    巨大DNA鎖における環状と線状の比較

    DNAを鋳型とするナノ金属構造体

    再構成クロマチンの高次構造転移

    ナノ粒子による長鎖DNAの折り畳み:人工クロマチンモデルの構築

    単分子長鎖DNAの構造転移と遺伝子活性

    巨大DNAの機能制御
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セミフレキシブル高分子の引き伸ばし: 構造転移と履歴
 生体高分子の高次構造についての研究は、生体機能との関わりにおいてのみならず物理学的にも興味深い。例えば、DNAは中性高分子や多価カチオンの存在下でトロイド状やロッド状の様々な秩序凝縮構造をとることが実験的に明らかになってきており、シミュレーションでもこの結果は再現されている。そこで本研究では単一セミフレキシブル高分子鎖の引き伸ばしのシミュレーションを行い、伸縮に伴う構造転移のダイナミクスとその時の力学応答と調べた。
 図は伸張,収縮過程での力学応答を示しており、伸張過程では、のこぎり型の力学応答(stick and release pattern)が見られる。また、セミフレキシブル高分子では、操作速度が凝縮転移にかかる時間スケールに比べて十分遅いのにもかかわらず履歴を示している。これは凝縮構造の多様性とそれらの間の転移の不連続性に起因しており、フレキシブル高分子では見られない現象であることが分かった。
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参考文献
"Different pathways in mechanical unfolding/folding cycle of a single semiflexible polymer", N. Yoshinaga, K. Yoshikawa and T. Ohta, Eur. Phys. J. E, 17, 485 (2005).
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単一高分子によって生成されたトロイド構造の形状変化
 半屈曲性高分子(セミフレキシブル高分子)は、貧溶媒条件下において、ランダムコイルから密にパッキングされたトロイド構造(ドーナツ状)へと自発的に折り畳まれる。トロイド構造には、直径が60 nm 〜 200 nmまで、形も球状に近いものからデスク状のものまでと、様々な種類のものがこれまで一分子実験によって観察されていた。そこで本研究では、このような様々なトロイドの構造形成を、一つの枠組みによって説明できるようなモデルを提唱した。電子顕微鏡を用いた観察によっても、本モデルの示唆する構造が観察された。右図に、実験で得られたトロイドの電顕像と、トロイド構造の高分子鎖断面積への依存性を示す。 figure
参考文献
"Morphological Variation in a Toroid Generated from a Single Polymer Chain", Yoshiko Takenaka, Yuko Yoshikawa, Yoshiyuki Koyama, Toshio Kanbe and Kenichi Yoshikawa, Journal of Chemical Physics, 123, 014902 (2005).
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巨大DNA鎖における環状と線状の比較
 環状高分子の広がり(慣性半径や末端間距離の2 乗平均)は同じ全長の線状高分子のものより小さいとされている。しかし環状高分子の合成は難しく、実験的な検証が困難なため環状高分子に関しては不明な点が多い。一方天然高分子DNA では生体内にウィルスのプラスミドなど環状DNA が存在し、制限酵素を用いて一箇所切断することにより、容易に全長が単分散な環状および線状高分子を得ることができる。そこで本研究では106 キロ塩基対の線状および環状DNA の流体力学的半径を蛍光顕微鏡を用いた単分子直接観察によって測定した。その結果、長鎖環状DNA の流体力学的半径は線状のものよりも25 %以上大きいことを見出した。 figure
参考文献
"Hydrodynamic radius of circular DNA is larger than that of linear DNA ", S. Araki, T. Nakai, K. Hizume, K. Takeyasu and K. Yoshikawa, Chem. Phys. Lett. , 418, 255-259 (2006).
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DNAを鋳型とするナノ金属構造体

 DNAは折り畳みにより、多様なナノ構造を形成することが明らかになってきている。そのような長鎖DNAの特質を利用してDNA を鋳型とする金属のナノ構造体の自己生成に関する研究を進めてきている。すでに、DNAのトロイド構造を鋳型とすることにより、世界最小の銀のナノリング(図)創生に成功している。また、DNAナノファブリケーションについても、これまでに得られたDNA高次構造に関する知見を基にして、様々なDNA 金属化技術を開拓する。DNAを基にした新奇な金属ナノ構造体の自己生成の研究は、今後ナノエレクトロニクスやバイオイメージングの分野において多大な貢献が期待される。

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参考文献

"DNA Templated Silver Nanorings" A. A. Zinchenko, K. Yoshikawa, and D. Baigl, Adv. Mater., 17, 2820-2823 (2005).

"Nanostructures via DNA Scaffold Metallization" N. Chen, A. A. Zinchenko, D. Baigl, O. Pyshkina, V. Sergeyev, K. Endo, K. Yoshikawa, Proceedings of 2005 International Symposium on Micro-Nano Mechatronics and Human Science, 71-74 (2005)

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再構成クロマチンの高次構造転移
 真核生物のDNAはヒストンタンパクと複合体を作ることで効率よく構造を調節している。その最小構成単位はヒストンタンパクの周りにDNA鎖が約1.75回巻きついたヌクレオソームと呼ばれる構造であるが、より高次の構造については分からないことが多い。我々は、100キロ塩基対の長鎖DNAとコアヒストンから再構成したクロマチンが、ヌクレオソームの密な部分と疎な部分に相分離することを見い出した。また、AFM像の解析によりヌクレオソーム間の実効的なポテンシャルを測定し、ヌクレオソームのコアの部分(11 nm) に比べて引力の働く部分が狭い(〜1 nm) ことを見い出した。このポテンシャルを用いた計算により、長鎖再構成クロマチンが相分離構造を持つことを示した。 figure
参考文献
"Phase transition in reconstituted chromatin", T. Nakai, K. Hizume, S. H. Yoshimura, K. Takeyasu, and K. Yoshikawa, Europhys. Lett., 69, 1024 (2005).
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ナノ粒子による長鎖DNAの折り畳み:人工クロマチンモデルの構築

 ヒトをはじめとした真核生物のDNAは、ヒストンタンパク質との複合体を形成しクロマチンとして細胞内に折り畳まれている。クロマチンの時空間的な秩序構造は、生命現象の営みにおいて必要不可欠なものであるが、その理解は未だに進んでいない。この問題に対しての基本的な知見を得るために、ヒストンの代替物として、様々なサイズ、電荷をもったカチオン性の合成ナノ粒子を用いた人工的な生体模倣クロマチンの系を構築し、研究を進めてきた(図)。これまで、このDNA-ナノ粒子系は、細胞内での実際のクロマチンと多くの共通の性質を持つことを明らかにしている。特に、(i) 中間的な折り畳み構造として”beads-on-a-string” 構造をとること; (ii) 生理的な塩濃度において折り畳みの効率が最適なこと; (iii) 半径10nmのビーズを用いると、クロマチンの基本構造のヌクレオソーム類似の折り畳み構造が自己組織化されること;などは特筆すべきことである。

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参考文献
"Compaction of Single-Chain DNA by Histone-Inspired Nanoparticles", A. A. Zinchenko, K. Yoshikawa, and D. Baigl, Phys. Rev. Lett., 95, 228101 (2005).
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単分子長鎖DNAの構造転移と遺伝子活性
 数10キロ塩基対以上の長さのDNA分子は、多価カチオンや中性高分子をはじめとする種々の凝縮剤の濃度変化に応じて、拡がったコイル状態から、固く折り畳まれたグロビュール状態へと転移する。この転移挙動は、中間状態を経ない不連続なものであることが明らかにされている。一方で、DNAは生物の遺伝情報の担い手でもあり、このような構造転移がDNA上に刻まれた遺伝子の発現に及ぼす影響は、生物学的な見地からも興味深い。本研究では、DNA(図中、青)と、それを鋳型として転写されるRNA(図中、赤)とを、蛍光顕微鏡を用いて単分子レベルで同時観察し、単分子長鎖DNAの構造転移が転写活性のon/offスイッチングを引き起こすことを明らかにしている。図中左は、コイル状態のDNAを転写反応後に引き伸ばしたものであり、DNA分子上にRNAが合成されている。一方、右はグロビュール状態で、RNAは見られない。スケールバーは5 μm。 figure
参考文献
"All-or-none switching of transcriptional activity on single DNA molecules caused by a discrete conformational transition", A. Yamada, K. Kubo, T. Nakai, K. Tsumoto, and K. Yoshikawa, Appl. Phys. Lett., 86, 223901 (2005).
"Giant DNA molecules exhibit on/off switching of transcriptional activity through conformational transition", K. Tsumoto, L. Francois and K. Yoshikawa, Biophys. Chem., 106, 23-29 (2003).
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巨大DNAの機能制御
 長鎖DNA高次構造と転写活性の相関について、転写活性に及ぼす、水溶液環境パラメータの変化によって引き起こされるDNA高次構造転移の影響を研究する。ゲノムDNAを含む長鎖DNA分子は、長く弛緩した状態と小さく折り畳まれた状態との間で可逆的に高次構造変化をすることが知られている。この遷移は、直鎖状DNAの場合は一次相転移であり、凝縮剤として多価カチオンや水溶性高分子を用いた環境要因によって引き起こされる。転写の鋳型となるDNAの長短、ねじれ、リンキング、空間、塩基組成によって、その高次構造転移の様相が異なり、それに伴って転写活性も変化すると予想される。なかでも本研究では短鎖DNAでは見られないが、長鎖DNAの場合には高次構造転移によって転写活性が抑制されることを発見した。荷電高分子としてのDNAの高次構造、特にゲノムDNAをはじめとする巨大なDNAの高次構造が転写活性の制御に大きな影響を及ぼすという、生物的な意義を見出したことは、高分子物理学的に意味があるのみならず、生命科学の発展にも貢献するような貴重な成果であると言える。 figure
参考文献
"Enhancement and inhibition of DNA transcriptional activity by spermine: a marked difference between linear and circular templates", F. Luckel, K. Kubo, K. Tsumoto, and K. Yoshikawa, FEBS Letters, 579, 5119-5122 (2005).
"On/Off switching of transcription caused by folding transition in giant DNA: novel scenario on genetic control", K. Yoshikawa, F. Luckel, A. Yamada, and Y.Yoshikawa, J. Biotechnology, 118, S14 (2005).
"Giant DNA molecules exhibit on/off switching of transcriptional activity through conformational transition", K. Tsumoto, F. Luckel, and K. Yoshikawa, Biophysical Chemistry, 106, 23-29 (2003).
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ソフトマター物理学

    溶媒和効果と臨界揺らぎのカップリングによる新しい秩序構造

    リン脂質二重膜の周期構造とベシクル形成過程

    ミセル、マイクロエマルジョン系のdynamics

    マイクロエマルジョンの圧力誘起構造相転移
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溶媒和効果と臨界揺らぎのカップリングによる新しい秩序構造
 水と3メチルピリジンを混合した溶液は室温よりやや上の温度で相分離し、臨界現象を伴うことが知られている。また塩を加えることにより臨界温度が低下することが知られており、塩による溶媒和効果との関係が指摘されていたが、その要因などについて理解されていない点も多かった。 そこで最近我々はこの系にNaBrやLiCl等の塩を加えたときの臨界点近傍での構造について中性子小角散乱を用いて詳しく調べた。その結果、溶媒和効果と臨界揺らぎのカップリングによる新たな秩序構造が出現することを明らかにした。
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参考文献
N. L. Yamada, H. Seto, T. Takeda, M. Nagao, Y. Kawabata and K. Inoue, "SAXS, SANS and NSE studies on the "unbound state" in the DPPC/water/CaCl2 system", Journal of Physical Society of Japan, 74, 2853 - 2859 (2005).
K. Sadakane, H. Seto, H. Endo, and M. Kojima, "Mesoscopic structure in near-critical mixtures of D2O and 3-Methylpyridine with salts", Journal of Applied Crystallography, 40, s527-s531 (2007).
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リン脂質二重膜の周期構造とベシクル形成過程
 水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(疎水基)を持つ棒状の両親媒性分子である「リン脂質」は、水中で疎水基が水に触れないように二重膜構造を形成し、それが生体膜の骨格をなしている。従ってその水中での構造と秩序形成要因を調べることは、生体膜の形成要因を調べることに通じる。我々は人工リン脂質DPPCの水中での構造形成に着目し、塩による静電斥力や浸透圧、及び熱揺らぎによる立体斥力の協同により膜間距離が無限大になる傾向を示すことを明らかにした。また圧力やエタノールの添加により膨潤相が現れることを示した。更にリン脂質の乾燥膜からマイクロメーターサイズの単層ベシクルが形成されるプロセスを明らかにした。
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参考文献
N. L. Yamada, H. Seto, T. Takeda, M. Nagao, Y. Kawabata and K. Inoue, "SAXS, SANS and NSE studies on the "unbound state" in the DPPC/water/CaCl2 system", Journal of Physical Society of Japan, 74, 2853 - 2859 (2005).
M. Hishida, H. Seto, and Y. Yoshikawa, "Smooth / rough layering in liquid-crystalline / gel state of dry phospholipid film, in relation to its ability to generate giant vesicles", Chemical Physics Letters, 411, 267 - 272 (2005).
H. Seto, M. Hishida, H. Nobutou, N. L. Yamada, M. Nagao, and T. Takeda, "Strucutural Changes of Dipalmitoyl Phosphatidylcholine Aqueous Solution Induced by Temperature, Pressure, and Adding Ethanol", Journal of Physical Society of Japan, 76, 054602 (2007).
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ミセル、マイクロエマルジョン系のdynamics
 界面活性剤分子が集合して紐状になったミセルはその静的性質は鎖状高分子と同様に理解されているが、動的性質についてはミセルの切断・融合が許されるため独特な性質を持つ。この系のdynamicsについてはこれまでレオロジー測定などで研究されてきたが、ミセル自身の運動については良く分かっていなかった。そこで中性子スピンエコー法によりこの系のdynamicsを測定し、低濃度ではミセル自身の拡散が支配的だが10%程度よりも高濃度ではreptationが効いてくることを示唆する結果 を得た。またこの結果はこの系がZilman & Granekモデルの1次元系の場合に当たると言う事であり、ラメラやbicontinuous等の2次元膜に対する結果 と合わせ統一的に理解することができる。
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参考文献
H. Seto, T. Kato, M. Monkenbusch, T. Takeda, Y. Kawabata, M. Nagao, D. Okuhara, M. Imai, and S. Komura, "Collective motions of a network of wormlike micelles.", The Journal of Physics and Chemistry of Solids, 60, 1371-1373 (1999).
S. Komura, T. Takeda, Y. Kawabata, S. K. Ghosh, H. Seto, and M. Nagao, "Dynamical fluctuation of the mesoscopic structure in ternary C12E5 / water / n-octane amphiphilic system", Physical Review E, 63, 041402 (2001).
S. Komura, T. Takeda, Y. Kawabata, S. K. Ghosh, H. Seto, and M. Nagao, "Hydrodynamic interactions in the structural fluctuation of a ternary amphiphilic system C12E5 / water / n-octane", The European Physics Journal E, 5, 329 (2001).
N. L. Yamada, T. Takeda, K. Kato, M. Nagao, and H. Seto, "Effect of confinement on membrane undulation in a swollen lamellar phase", Journal of Physical Society of Japan, 74, 875 - 877 (2005).
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マイクロエマルジョンの圧力誘起構造相転移
 マイクロエマルジョンの構造形成要因については、界面活性剤膜の自発曲率が重要な役割を果 たしていると考えられており、AOT/水/デカンのdroplet濃厚系においては、温度上昇により親水基からのイオン解離が進行し、親水基間の静電反発力が増大し自発曲率が変化することによりラメラ構造が現れると説明されている。しかしながら圧力の効果 については複雑で、これまでほとんど分かっていなかった。そこで我々はこの系の圧力による構造変化をSANSにより調べた。その結果 室温常圧の濃厚なwater-in-oil droplet構造は、数十MPa程度の静水圧下で規則的なラメラ構造と不規則なbicontinuous構造の2相共存状態に相転移することを初めて示した。
 この圧力誘起相転移は温度変化による相転移と似ているため、SANSとX線小角散乱(SAXS)を用いて圧力・温度効果 の違いについて詳しく調べた。その結果、圧力はむしろ疎水基同士や疎水基と油との相互作用に影響しており、この引力の増大が相転移を引き起こしていることが分かった。更に中性子スピンエコー法(NSE)を用いて膜のdynamicsを調べることにより、温度上昇により膜が柔らかくなる一方で圧力により硬くなることが分かった。
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参考文献
M. Nagao, and H. Seto, "A small angle neutron scattering study of a pressure induced phase transition in a ternary microemulsion composed of AOT, D2O, and n-decane.", Physical Review E, 59, No. 3, 3169 - 3176 (1999).
H. Seto, D. Okuhara, Y. Kawabata, T. Takeda, M. Nagao, J. Suzuki, H. Kamikubo, and Y. Amemiya, "Pressure and temperature effects on the phase transition from a dense droplet to a lamellar structure in a ternary microemulsion.", The Journal of Chemical Physics, 112, 10608-10614 (2000).
H. Seto, M. Nagao, Y. Kawabata, and T. Takeda, "Pressure-induced structural phase transition of dense droplet microemulsions studied by small-angle x-ray scattering.", The Journal of Chemical Physics, 115, 9496-9502 (2001).
M. Nagao, H. Seto, Y. Kawabata, and T. Takeda, "Effects of temperature and pressure on phase transitions in a ternary microemulsion system.", The Journal of Chemical Physics, 115, 10036-10044 (2001).
Y. Kawabata, M. Nagao, H. Seto, S. Komura, T. Takeda, D. Schwahn, N. L. Yamada, and H. Nobutou, "Temperature and pressure effects on the bending modulus of monolayers in a ternary microemulsion", Physical Review Letters, 92, 056103 (2004).
M. Nagao, H. Seto, D. Ihara, M. Shibayama, and T. Takeda, "Pressure-induced hexagonal phase in a ternary microemulsion system composed of a non-ionic surfactant, water, and oil", Journal of Chemical Physics, 123, 054705 (2005).
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非線形・非平衡物理学

    化学マランゴニ効果による時空間構造の形成と秩序ある自発運動

    反応拡散対流系

    反応拡散系における境界の影響
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化学マランゴニ効果による時空間構造の形成と秩序ある自発運動
 生物は、化学エネルギーを熱に変換することなく効率よく運動エネルギーに変換している。そのメカニズムの究明は非常に興味深いとともに、実学的にも意義深いことであり、われわれは、この機構を解明するために、生物自体を取り扱うのではなく、そのより平易なモデル系を構築し、メカニズムに迫っている。例えば、界面活性剤の濃度の不均一が存在する状態においては、その不均一を妨げる向きに界面の接線方向に力が働き、流れが生じることが知られている(溶質マランゴニ効果)。この溶質マランゴニ効果は等温条件下で化学エネルギーを力学エネルギーに変換しており、その実験モデル系の構築・解析を通じて、究極的には等温条件下での化学ー力学エネルギー変換系の物理の理解を目指している。
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参考文献
"Self-Running Droplet: Emergence of Regular motion From Nonequilibrium Noise.", Y. Sumino, N. Magome, T. Hamada and K. Yoshikawa,, Phys. Rev. Lett., 94, 068301 (2005).
"Chemosensitive Running Droplet", Y. Sumino, H. Kitahata, K. Yoshikawa, M. Nagayama, S-i. M. Nomura, N. Magome and Y. Mori, Phys. Rev. E, 72, 041603 (2005).
"Mode Selection in the Spontaneous Motion of an Alcohol Droplet", K. Nagai, Y. Sumino, H. Kitahata and K. Yoshikawa, Phys. Rev. E, 71, 065301 (2005).
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反応拡散対流系
 化学反応や生命現象を記述する際、空間による濃度の違いを陽に記述できるモデルとして反応拡散系がよく用いられてきた。反応拡散系の枠組みで、自発的に動的あるいは静的なパターンが生成することが広く知られている。しかし、現実空間を考えると、場が静止している系はむしろ少なく、場自体が動く系が多い。そのような系を考える際、もっとも自然な「場の運動」の導入方法は、場自体の流れを反応拡散系に導入するものである。そこで、反応拡散系の実験モデル系であるBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応を用いて、化学反応と結合したMarangoni対流が観察できるような系を構築した。またこの対流と関係してBZ反応の微小液滴が自発的に運動する系も構築した(図)。このような系は化学エネルギーから運動を生み出す系としても興味深い。 figure
参考文献
"Convective and periodic motion driven by a chemical wave", H. Kitahata, R. Aihara, N. Magome, and K. Yoshikawa, J. Chem. Phys., 116, 5666-5672 (2002).
"Spontaneous motion of a droplet coupled with a chemical reaction", H. Kitahata, Prog. Theor. Phys. Suppl., 161, 220-223 (2006).
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反応拡散系における境界の影響
 非平衡開放系の代表例として反応拡散系が広く研究に用いられている。一般的に反応拡散系の研究において境界の効果について十分考慮されているものは少ない。むしろ時空間パターン形成を議論する際には境界の影響をできるだけ減らそうとする研究が主流であった。しかしながら、細胞などシステムのサイズがより小さくなると、境界の影響が重要となることが予想される。そこで、反応拡散系の実験モデルとしてよく用いられるBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応を用いて実験・理論の両面から研究を行っている。たとえば、内径がだんだんと細くなっていくガラスキャピラリ中でBZ反応の化学波がだんだんと伝播速度が遅くなり、最終的には消滅するという現象を見出した(図)。また、光感受性BZ反応を用いて同様に反応場の幅が徐々に狭くなっていく系を構築すると、化学波の消滅位置が1つおきに異なる現象などについても研究を進めている。 figure
参考文献
"Slowing and stopping of chemical waves in a narrowing canal", H. Kitahata, R. Aihara, Y. Mori, and K. Yoshikawa, J. Phys. Chem. B, 108, 18956-18959 (2004).
"Spatio-temporal pattern formation with oscillatory chemical reaction and continuous photon flux on a micrometre scale", H. Kitahata and K. Yoshikawa, J. Phys. Condens. Mat., 17, S4239-S4248 (2005).
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